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△▼　　　中国経済最前線−特集ニュース版−《第５号−１》　1999/08/27　　　▼△
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　　《第５号》　　中国ＭＳの女性総経理が突然の辞意　　背景には中国企業の反撃も？
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------------------------------- INDEX --------------------------------
◎《第５号》本文
　◆中国ＭＳの女性総経理、突然の辞意表明の背景や如何に？
　◆ＩＢＭとマイクロソフト、企業文化の違いも影響か？
　◆マイクロソフトに立ち向かう中国企業、光明はあるのか？
　◆訴訟に対抗する亜都科技集団、勝算や如何に？
◎次回の予告
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　　《第５号》本文（前編）
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◆中国ＭＳの女性総経理、突然の辞意表明の背景や如何に？

　今年６月１８日の午後３時、中国マイクロソフト（ＭＳ）総経理（社長）の
　呉士宏（女史）が、就任から僅か１年４ヶ月で突然の辞職を表明し、中国の
　マスコミ界を大きく賑わした。

　中国ＭＳの責任者が辞職を表明したのは彼女が初めてではなく、前総裁の杜
　家濱も彼女が総経理に任命されてから、２ヶ月も経たないうちに辞職を表明
　し、同社を去っていった歴史がある。ただ、彼女の場合、ＩＢＭの平社員か
　ら大出世を果たした「女性総経理」として、就任当初から多くの話題を集め
　ていただけに、インパクトは大きかった。

　業界関係者の間では、「堪えられなくなった？」「病気になった？」「結婚
　するのでは？」「ヴィーナス計画に関連しているのでは？」などと、様々な
　憶測を呼んだ。彼女と懇意にしていた同僚によれば、あくまで個人的な理由
　として「事業をしてみたくなった。生活の中で別に重要なものができた。」
　だけと言うが・・。

　事の真相は判らないにしても、中国ＭＳの社長として、取り巻く環境は厳し
　く、様々な逆風に曝され、激務にあったことは否定できないようだ。

　海賊版や違法コピー撃退のために、呉士宏は昨年から訴訟などを強化し始め、
　一部では賠償金を獲得するなど、一定の成果を上げた。だが、今年４月から
　始めた亜都科技集団との訴訟では、相手側から思わぬ反発を受け、全面戦争
　の様相を呈してきた。（亜都科技集団は、本件で巨人マイクロソフトに勝て
　るかどうかは別問題として、ある種の開き直りの姿勢を見せた。）

　昨年１１月に設立されたマイクロソフトの北京研究所にて、高給・厚待遇で
　研究員を招聘し始めた事で、中国ＭＳに在籍している優秀な人材が流失する
　という驚異にもさらされている。

　今年３月には、ビル・ゲイツ会長自らが深セン市に訪問し、ヴィーナス計画
　を発表した事で、「マイクロソフトの覇権」に対して、中国の家電業界も巻
　き込む形で、驚異と反発が増幅していった。

　さらに、昨年発表された「中文Windows98」では、米国よりも相当に割高な
　１，９９８元という定価が設定され、海外では無料配布されている「Office
　2000試験版」も、中国では２００元前後に設定されている事などを背景に、
　一般大衆の反感も少なからず増えてきた。加えて、「もう少し価格が下がれ
　ば、正規版を購入する人も増え、海賊版も少なくなる筈だ。」と言った主張
　も少なからず出てきた。

　ただ、この点について言えば、まだ市場規模が巨大とは言えない中国で、複
　雑な中文化作業に掛かる付加コストを考えると、致し方ない部分もある。加
　えて、違法コピーが溢れる現状では、そのリスク分も考慮して高めの定価を
　設定しなければならない側面もある。仮に価格が下がったとしても、海賊版
　と同等レベルの価格で販売できるわけではないため、海賊版の需要が少なく
　なるとは思えない。

　正直言って、ＯＳの海賊版ＣＤ−ＲＯＭが２０〜３０元で購入できる現状が
　存在する限り、企業論理としては無理に安い価格を提示する事も出来ない。
　この点だけで言えば、マスコミもマイクロソフトを批判する前に、中国政府
　に違法コピーの取締り強化を訴えて頂きたいものであるが・・。

　それはさておき、このような企業内外の環境も影響してか、呉士宏が課せら
　れた販売目標は、昨年と今年の上半期ともに達成できない状態が続いていた。
　理由はどうであれ、経営者として結果的に目標を達成できなかった責任を問
　われても致し方ない。ただ、昨年から押し進めていた改革で、企業内部の管
　理制度が整い始め、「これから果実を取れる段階に差し掛かった矢先」とも
　言われていたのだが・・。


◆マイクロソフトとＩＢＭ、企業文化の違いも影響か？

　別の側面としては、企業文化の違いがあったかも知れない。

　呉士宏は、９７年にＩＢＭの華南地区総経理に任命されたことで、一躍脚光
　を浴びるまでの人物となったが、その始まりはＩＢＭ北京事務所にて、ごく
　普通の事務員としてスタートしている。

　７９年に白血病で床に倒れた呉士宏は、その後の４年間を治療に費やした。
　死の崖っぷちから生き返った彼女は、「もしかすると、自分に残された時間
　は多くないかも知れない。命が生まれ変わったと思ってスタートするしかな
　い。」と、悟りを開いた。「自分の中にある野心が芽生えたのは、この時か
　も知れない。」と後に彼女は語っている。

　大病を克服した呉士宏は、独学で英文学を学び始めた。わずか１年半の期間
　で、本来３年を必要とする英文専門過程を修了し、短大相当の学歴を取得し
　た。その直後の８５年６月、決意を固めた彼女は、果敢にもコンピュータ最
　大手のＩＢＭ北京事務所の就職試験に臨んだ。

　英語の筆記試験と英会話の試験にパスした呉士宏は、最後の面接試験で面接
　官から「タイプは出来るか？」との問いに、即座にできると答えた。さらに
　「１分間で何文字打てる？」との問いには、「御社のご要求は？」と返し、
　面接官が１つの基準を提示した際には、「できます。」と答え、「私は必ず
　御社のご希望に応えます。仮に応えられなければ、即座に解雇して下さい。」
　と結んだという。

　後に呉士宏は、この面接を回顧して、「あの時、面接会場の周囲に１台のタ
　イプライターもなかったので、適当に言葉を合わせた。しかし、実際はタイ
　プライターなど、一度も打ったことがなかった。幸運なことに面接官は「今
　度、時間を作ってタイプの試験をやりましょう！」と、語っただけ。」と。

　ただ、面接直後には友人などから１７０元を借り集め、１台のタイプライタ
　ーを購入した。その後の１週間は、昼夜を問わずタイプの練習に明け暮れ、
　その甲斐あってか専門タイピストの水準までに達した。以後、呉士宏は数ヶ
　月の歳月を経て、借金の返済を果たしたが、ＩＢＭからは結局一度もタイプ
　の試験はなかったという。

　こうして、見事にＩＢＭへの入社を果たした呉士宏は、不断の努力で着実に
　出世の階段を駆け上がっていった。

　ＩＢＭという巨大企業で１３年も務めた呉士宏は、好い意味でも悪い意味で
　も、その企業文化が身に付いている。そのため、マイクロソフトに転職した
　後も常に、「これをやったら、ＩＢＭ過ぎないか？」と自問する日々が続い
　ていたという。

　呉士宏の言葉を借りると、「ＩＢＭは完全無比を追求する企業。非常に多く
　の”プロセス”を有しており、往々にして物事を可能な限り細かく、精密な
　格子に刻み分析することを好む。そのため、そのプロセスが時折、煩わしく
　感じられることもある。ただ、非常に奥深い企業文化を有するＩＢＭでは、
　個人を尊重した上で完全を追求する。そこでは、冷徹なプロセスに、温情と
　吸引力が加わっている。」と。

　一方のマイクロソフトは、「精彩を追求する企業。個人の智慧を重視し、火
　花を撒き散らすことを好み、”人治”に依存する部分が大きい。勿論、非常
　に厳密な管理システムを有しているが、最後に帰結するのは、”数字至上主
　義”」という。

　筆者はどちらの企業にも属したことはないため、正確なことを語る事はでき
　ない。が、非常に的を得た表現にも思える。一口に米企業といっても、千差
　万別であることは確かで、どちらが良いとか悪いとかを議論できる問題でも
　ない。また、どちらを好むかは個人の選択の自由であるが、ＩＢＭで１３年
　も務めあげた呉士宏にとっては、身に付いた企業文化を簡単に拭い去ること
　はできなかったのかも知れない。

　ただ、現地スタッフにとっては、両者ともに「努力次第ではトップにまで駆
　け上がれる可能性がある。」という夢はありそうだ。この点に関して、日系
　企業には大きな葛藤が残っているとも思える。「希望としては、現地化を促
　進して現地スタッフに任せたい。が、本当に全てを任せて上手くいくのか？」
　というような？・・。


◆マイクロソフトに立ち向かう中国企業、光明はあるのか？（前半）

　今年の３月１０日、ビル・ゲイツ会長が自ら深センに乗り込み、ヴィーナス
　計画を発表した。中国の業界関係者は、特に目新しいものは無いと言いつつ
　も、マイクロソフトが情報家電分野へ本格参入する事に対して、驚異に感じ
　ていることは確かだ。中国でも、「マイクロソフトの市場戦略が、絶対的に
　一流である事は否定できない事実。」と素直に認めている。

　一般的にマイクロソフトの意図は、「Windows CEを基礎としたＯＳをチップ
　化して、ハードに埋め込むこと」と言われているが、これが実現されてしま
　うと、「今や世界的にも最大級となった中国の家電市場も、マイクロソフト
　に抑えられてしまう」ことになり、中国企業の対抗意識も高くなってきた。

　「中国人にも絶対に出来る事だ。」と、その主張を譲らないし、巨大家電市
　場を独占されないためにも、簡単には譲れない部分でもある。

　中国科学院傘下の凱思軟件集団は９７年から、中国で最も優秀なソフトウエ
　ア技術者を３０名余りを集め、開発部隊を組織して情報家電向けなどのソフ
　トウエア開発に着手した。既に先進的な核心技術は掌握しており、情報家電
　向けのソフトや掌サイズのコンピュータ向けＯＳなど、多くのソフト製品の
　開発に成功しているという。

　中国の新聞論調などでは、「Windows CEは英文ソフトを中文化したに過ぎな
　く、中国向けに専門に開発されたものではない。そのため、根本的に中国人
　ユーザの使用習慣などを考慮していない。また、一生使うことのない機能も
　多く存在しており、普通のユーザが実際に使いこなせる機能は、おそらく製
　品の１０％程度しかない。」との厳しい論調を展開し、「中国の独自技術で
　開発された製品が市場に投入されれば、マイクロソフトに比べて数分の１以
　下の価格に抑えることができ、価格面でも一般にユーザに受け入れられる。」
　と、中国製の優位性を強調している。

　だが、企業戦略に長けたマイクロソフトも、次世代に向けた戦略を中国で展
　開し始めた。昨年１１月、北京に８，０００万ドルを投入して国際的な研究
　所を開設する計画を発表した。マイクロソフトの研究所としては、米国２カ
　所、英国１カ所に次ぐ４カ所目で、アジアでは初の本格的な研究所の設立と
　なる。

　同研究所の目的は、中国政府、大学、調査機関などと協力して、コンピュー
　タの視聴覚、言語、学習能力の開発を行う事という。中国人の人材活用とい
　う側面もあるかも知れないが、最も大きな目的は中国市場であり、とりわけ
　中国で最も大きな需要が期待できる情報家電などの分野で、中国市場を制覇
　することのように思える。

（つづく）
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